ひとり芝居・覚え書き 中島淳一 vol.2
 ひとり芝居を始めたのは1986年、33才の時である。
ホテルでの個展のオープニングパーティの席で酔っ
たあげく芝居をやると口走ったらしい。らしいというの
は翌日、ホテルの総支配人から聞かされるまで覚え
がなかったからだ。上演日程を聞かれ思わず7月25日
と答えてしまった。その時はひとり芝居をしようなどとい
う発想は微塵もなかった。しかし、いざ芝居をやるとな
ると事は簡単ではない。台本に出演者、スタッフ(照明
・音響・衣裳)、それに稽古場も確保しなければならな
い。規模にもよるが、少人数の芝居でも500万円くらい
の制作費は用意しておかなければならない。7月とい
えば、6月には東京での大事な個展を控えている。
 5月、10年振りに学生時代に留学していたアメリカの
大学を訪れ、懐かしい再会を果たしたのだが、夜にな
ると不意に7月の芝居の事が気になり出して眠れない。
東京の画廊に電話を入れる。6月の個展を変更して貰
うしかないと思ったからである。しかし、オーナーは
ロンドンに出張との事。一年も前から決まっている予定
を突然一ヶ月前に変更などできるはずはないと一蹴さ
れた。何をやっているんだろう、オレは画家ではないか、
本末転倒も甚だしい。ため息混じりにベッドに大の字に
なる。
 ホテルヒルトン・ウエイコー、午前2時。不意に、
ひとり芝居という言葉が脳裏をよぎったのである。
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